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中野 優 展 「熟したら 寝ます」
2025.9/2(火)〜27(土)
13:00〜18:00(日・月休み)

 

桃が旬を迎える夏、あちこちで桃の香りや味わいに出会うと、
私も自然と心が浮き立ち、思いを馳せ、形に残したいと企てます。

桃は昔から、人々に特別な意味を与えられてきました。
古事記では魔を退ける力を持ち、
桃太郎の物語では命と勇気の象徴に。
ひな祭りでは春の花として子どもの成長を見守り、
西洋では若さや魅力を讃えるモチーフとされています。
中国では不老不死の仙果として神々が口にする
永遠の象徴とされてきました。
また熟した桃に人が集まることから、「桃李門に満つ」という
優れた者にも人が集まる様子を表すことわざにもなっています。
食べ物としての甘美さだけでなく、
文化や精神にまで深く根を下ろしてきた果物というわけです。

今年は蟠桃が我が家に届きました。
箱を開けた瞬間に広がる香り、積雲のような独特の形、
歯切れのいい果肉、酸味を含む果汁の甘さ。
ひとつの果物にこんなにも豊かな世界を膨らませていて、
幸福の気配を感じます。
そんな空間を染める気配をすくい上げて絵の中に息づかせたい。

けれど同時に、数年前から果物アレルギーが出始め、
桃もまたその対象になるかもしれません。
もし、そうなれば、いずれ忘れてしまうのではないかと不安がよぎります。
こんなに暑い夏なのに冬になるとその暑さを忘れて
「夏の方がましだよな」なんて思うように。

この展示は、私にとって幸せの感覚を分かち合うための試みであり、
忘れないための行為となるのです。